タイ

タイ映画市場と共同製作制度概要

タイの映画ビジネスは、他の発展途上国同様、今世紀に入り近代化した。近代化は様々な形で全体的に及んだが、特に(1) タイ政治の民主化により2008年に映画法(Film Act)が新施行されたこと、(2) 経済成長に伴い映画ビジネスが産業化し、国際市場での競争力が確立したほか、カンヌやベルリン、釜山などの国際映画祭で映画賞を受賞したことの2点が挙げられる。受賞例として、フランス人プロデューサーと共同製作したノンスィー・ニミブット監督作品『Queens of Langkasuka』が釜山プロモーションプラン賞を受賞(2006年)やタイ、シンガポール、フランスが共同製作したエカチャイ・ウアクロンタム監督作品『Pleasure Factory』をカンヌ国際映画祭のある視点部門に出品(2007年。本作品は国際共同製作を精力的に手がけていることで有名なFortissimo社がマネジメントを行った)されたものなどがある。

現在、タイ国内の映画ビジネスおよび映画業界は、国際共同製作に対する支援が必要な状態。タイで共同製作を進める際には、下記の業界事情やビジネス慣習を考慮しなくてはならない。

映画製作方式2種

  • 製作会社方式--通称“ハリウッドモデル”
  • 自主製作方式またはインディペンデント方式--通称“インディーズモデル”

共同製作の戦略的パートナーシップ4形式

1. 企業間の事業連携やプロデューサー間の連携、海外プロデューサーと監督の製作会社の間の連携による共同製作。

この形式の共同製作の一例として、タイのR.S.社とBest Production社、ならびに香港のHi Films社の企業間事業連携が挙げられる。また、タイのKick the Machine Trading社とLaong Dao社、ならびにフランスのAnna Sanders Films社が手がけた共同製作作品『ザ・パーク』(2003年)および『ブリスフリー・ユアーズ』(2002年)は3社の事業連携によるもの。『トロピカル・マラディ』(2004年)はフランス、ドイツ、イタリア、タイの4カ国の各共同プロデューサーが連携して製作された作品。『暗湧 --Invisible Waves』(2006年)はタイ(Five Stars Production社)、オランダ、香港、韓国の4カ国で共同製作した作品で、日本人俳優の浅野忠信と韓国人女優カン・ヘジョンが出演している。ノンスィー・ニミブット監督作品『ジャンダラ』(2001年)は、ピーター・チャン監督で有名な香港系製作会社Applause Pictures社の後援の下に、アジアの国が共同製作した作品。Applause社は、香港、韓国、タイ、日本、フィリピン、シンガポールなどアジア各国の製作会社と手を組んでいる。

2. “持分取引”(共同出資の契約)または“配給取引”(戦略的資本提携により出資者が許諾地域での配給権を取得する契約)によるプロデューサーと国際投資家(海外投資家)の共同製作。

この形式の一例として、Thai Entertainment社、Grammy社、Hub Ho Hin社のタイ系映画会社3社を統合し新規設立されたGMM Thai Hub社が挙げられる。同社が製作した数多くの作品の中でも『プアンサニット』は良く知られている。合併・新会社を設立しない持分取引の形式では、次のいずれかの方法で利益分配を行う。(1) 共同製作の場合、100万バーツ以上の収益分について映画製作会社が10%の利益配当を受ける、または、(2) 共同製作の出資割合と純利益に基づいて、あるいは国内興行収入の収益比率に基づいて20%、30%、または50:50の一律利益配当。この形式での共同製作の例として、タイ映画『Nong Teng Nuk leng Pukaothong』の共同製作でWork Point Entertainment社とSahamongkol Film社が両社の出資比率・利益配当を共に50:50と設定する持分取引契約を締結している。

3. 政府ファンドによる助成または国内外の映画祭・プロデューサーの出資金による共同製作。

この形式での共同製作の一例は、オランダのフーベルト・バルズ・ファンドの助成を受け、タイのFive Stars Production社、オランダのFortissimo Film Sales社、シンガポールのCathay Asia Film社、日本のパイオニアLDC社が共同製作した『地球で最後のふたり』(2003年)が挙げられる。

4. 共同製作条約に基づく共同製作。

タイ政府および他国政府との間で共同製作条約を締結している。条約の条項は「覚書」に規定されている。

資金源、配給取引・持分取引、共同製作4形式の関係

タイで共同製作を行う場合、最も効果的かつ効率的な方法で製作管理の改善を行うため、下記表に従った機会・脅威調査を実施しなくてはならない。

  機会 脅威
1 タイと共同製作条約・覚書を締結している国との間で配給取引が増加する。 共同プロデューサーの間で著作権の持分取引など、投資や共同製作の利益回収に対する契約が締結されるため、(業界としての)収益減少が進む。
2 便益を図ることで、共同プロデューサー全員が得する“ウィン・ウィン”関係が強化される。例:配給取引を持分取引に変更し、著作権・知的財産権を全員が共同で所有する。 共同製作契約を作成する際に各共同プロデューサーが必要とするものが適宜条項として規定できるよう、政府間条約・覚書が公正かつ現場のニーズや状況を反映したもののでなくてはならない。
3 競争の激しい既存市場(レッドオーシャン)、および、競争のない未開拓市場(ブルーオーシャン)の両市場における競合優位性が高まる。 税金の過剰徴収や税制優遇措置に注意を要する。
4 50:50での利益配当や特定地域のライセンス料、収益分配など、様々な形で投資収益が得られる。例:米国や欧州を狙っているアジア圏の共同プロデューサーの場合、収益を分配してでも共同製作をするメリットがある。 意思決定に必要となる情報が条約に規定されていない。
5 映画のスタイルによっては共同製作することでリスクを分散することができる。例:芸術映画、実験映画、“監督の独りよがりな作品”とも言える監督の自己満足映画など。 言語の壁やコミュニケーション不足、誤解により、条約の解釈に誤りが生じたり、不完全な情報を基に意思決定を下したりしなくてはならなくなる。
6 国外でも興行収入が得られることで、その作品から生じる収益が増加する。例:映画人口の観賞率がアジア15%、米30%、欧州35%を記録したタイ映画の場合、国内外での興行収入は映画人口の80%相当となる。 不公平な収益配分やリスクの負担が生じる場合がある。

文責:Chavana Pavgagunun(チャヴァナ・パヴァガヌン)助教授
提供:The Federation of National Film Associations of Thailand