中国

中国映画産業の全体像

中国の映画産業は、基本的に国家広播電影電視総局電影事業管理局(ラジオ映画テレビ総局・映画局管理局)に管理されている。この国家広播電影電視総局電影事業管理局(以下ラテ総局)には、主に以下の7つの役割がある。

  1. 中国映画の管理
  2. 中国映画産業発展のための企画立案
  3. 関連法律のドラフト作成
  4. 映画配給放映事業者の管理
  5. 映画審査委員会の組織づくり(この組織は各界の有識者から構成され、公開される映画の審査する)
  6. 映画産業発展のためのサービスの提供
  7. 国際的な映画文化に関する交流促進

その組織は、官房・総合オフィス、プロデュース部門、芸術的部門、市場管理部門、国際交流所、計画逗留所、映画技術所の7つの部署から構成され、さらに直属の機関として中国映画集団公司、映画チャンネル(CCTV6)、中国映画合作製片公司、中国映画輸出入公司、中国映画海外普及センターなどがある。

中国映画産業の全体図

映画の製作許諾プロセス

中国では、映画の製作にあたって、基本的には台本を届け出なければならない。また、公開にあたっては審査も受けなければならない。届け出と審査は別の概念だが、一般的に、届け出が承認されれば、審査も通る。届け出から承認までは、20日間で結論を出すことが法律で定められている。そこで、問題があれば、審査が延びることもある。審査において、海外の作品でよく指摘される項目は以下の4つ。

  1. 中国のイメージを失墜させるような内容
  2. ポルノ・暴力
  3. 宗教
  4. 第三者の利益を損なわれるもの

いずれも中国の映画管理条例のなかにある項目だ。届け出が受理されない例をより具体的に挙げると、

  1. 第三国を描く場合、第三国を悪の枢軸として描くこと。
  2. 民族、宗教をネガティブに捉えること。
  3. 信仰宗教に害を与えるもの。
  4. 未成年に有害な暴力、性描写。

中国の現状をリアルに描写するのは認められるが、悪意のある場合は認められない。ヴェネチア映画祭で金獅子賞受賞作の「長江哀歌」も中国の現状をありのままに描いているが、善意の立場から、進歩を促すものとして認められた。当局が推奨している作品は、「人間の善良さ、美しさ、勤勉や努力で富を作り上げ、希望をもたらし、人々のコミュニティーを作り、向上心を生み出す作品」である

最近の日本映画の中では、「日本沈没」が中国人に強い感動を与えたそうだ。日本民族の危機意識、危機が襲来した時、結束して立ち向かう精神を世界に向けてポジティブなメッセージを発信しているとして高い評価を受けたのだという。現在、ラテ総局では、各地の自治体を通して中国全土の映画産業の統計調査に力を入れている。集められた統計データは、ラテ総局のウェブサイトで毎年掲載される「映画活動報告」や、各役所で随時発表されるプレスリリースなどによって知ることができる。

中国での映画の製作配給の概要

2007年の映画製作本数は403本。興行収入も33億人民元(約530億円)を超えた。テレビ放送権、海外への配給権の売却などを加算すると、 60億人民元(約960億円)を越える市場規模に成長したと推定される。なお、ここには、二次使用のDVDやインターネットなどの収入は含まれていない。ここ数年の製作本数、スクリーン数の推移は別表の通り。

2007年の時点で、映画館は1400館以上、スクリーン数は3700以上にも上るが、近年の急増の理由は、世界各国と同様、シネコンの普及によるもの。北京などの大都市では、1サイトに15スクリーンあるシネコンも誕生した。この流れに伴い、従来の映画館はシネコンに改造したり、廃業したりしている。

中国の映画観客層は、最近のアンケートの結果によると、16歳から26歳の若者が中心。最近は作品の種類が豊富となり、観客の幅も広がった。そして、中国で昨年1番の興行成績を上げたのは「トランスフォーマー」。

中国における日本映画の存在感

2002年、2003年の頃は、中国映画、外国映画のシェアはほぼ50%だった。しかし、最近は中国映画が55%にまで上がっている。輸入映画の多くはアメリカ映画で、輸入映画全体の80%を越えている。なお、2007年の輸入映画の興行収入は推定15億人民元(約241億円)だった。

日本映画は、中国では1970年代後半から80年代にかけて多くの観客を集めた。映画では「君よ憤怒の河を渡れ」('76)、「幸福の黄色いハンカチ」('77)、テレビでは山口百恵の“赤”シリーズが数多くのファンを生んだ。高倉健、中野良子、山口百恵、三浦友和らは、この時代を知る中国人にとっては、憧れの存在だったのだ。

しかし、その後は中国と日本の文化交流は薄くなり、現在はハリウッド映画が中国の国民の心をとらえている状態が長く続いている。とはいえ、最近になって、ようやく中国でも日本映画が再び観られるようになってきた。「盲導犬クイール」、「単騎千里を走る」、「上海ナイト」などが一般の劇場や映画祭で上映され好評を得たのだ。昨年は「日本沈没」、「ドラえもん」、「手紙」などが上映され、注目を集めた。

「ドラえもん」は買切型(事項後述)で輸入され、昨年の夏休みに公開されて2000万人民元(約3億2000万円)の興行収入あげるヒットとなった。それを受け今年1月には日本映画として、はじめて利益配分型(事項後述)の買付で「ドラえもん のび太の大冒険」が公開された。旧正月公開作品として期待されたが、近年まれに見る大雪にも重なり、残念ながら興収は約1億5000万元に止まり、期待を下回る結果となった。

中国映画・外国映画興収シェア比較

中国映画 55%
外国映画 45%

出典:中国統計年鑑2007

中国映画市場の3つの層

中国では映画市場は主に以下の3つの層に大別することができる。

1.大都市の映画館

大都市の映画館だけで、中国の映画興行収入、33億元の90%の売上を上げている。ここで言う大都市とは人口500万人以上の都市を指し、中国だけで推定 30都市強ある。省や自治区などの中心都市と沿岸部の地域が中心で、中には1000万人都市もいくつかある。この大都市部だけで日本の人口を上回り、 3~4億人と推定される。既にこれら大都市の映画館の多くはシネマ・コンプレックスになっており、特に沿岸部では動員数、興行収入が急速に伸びている。日本同様にシネコンが急増する中国だが、日本のようにヒット作に観客が集中することはなく、むしろ、多様な作品がそれぞれ、観客を集めるようになった。シネコンが普及する前は、アメリカの利益配分型の映画、中国と海外の共同作品のビッグ・プロジェクト作でシェアのほとんどが占められていた。

2.中小都市の独立系の映画館

中国全土に点在する中小都市の、従来からある映画館。建物は古く、現在、国によってデジタル化が進められている。

3.政府の助成によるデジタル・シネマ

現在、300以上の上映施設で600スクリーンがデジタル化されている。これらの施設ではハリウッドが推進する国際標準、DCI(デジタル・シネマ・イニシアティブ)に合わせた2Kの規格を採用している。また、上記の中小都市にある映画館では1・3k規格のデジタル・シネマ設備の設置を進めているが、将来的には、これを1万スクリーンにまで増やす計画だという。この1・3k規格のデジタル・シネマは、既に中国独自の国家標準となっている。

農村部の映画事情

上記以外に中国には膨大な人口を有する農村部の映画市場がある。農村市場に関しては全面的にデジタル化する計画で、その規格は0.8kと決められている。現在、農村には3万7000スクリーンあり、それらを各自治体の上映キャラバン隊が回り、巡回上映を行っている。3万7000スクリーンのうちの3 万は16ミリの上映、残りは既に0.8kデジタル上映に変わっている。2010年までに16ミリの上映はやめて、デジタル化に変えていく予定だ。

キャラバン隊とは

政府が総額17億元を拠出し、機材などを用意するが、キャラバン隊自体は、全て事業者として参加し、ビジネスとして活動している。といっても農民たちが映画鑑賞料金を払うわけでなく、「中国映画産業の発展の為、農村の人々に映画の楽しみ方を知ってもらおう」という目的で、基本的には政府の資金によってこの事業が展開されている。したがって、コンテンツも政府が買い付けた作品を上映。いまのところ事業者や観客には選択の権利はない。スクリーンの大きさは横 5.5メートル縦3.8メートルで、松下と三菱の映写機を使用している。

上映場所について

地域によって変わるが、貧困地域は露天上映、豊かな地域では会場を借りて上映。一部では常設の映画館も作られ始めている。17億元は全国に一律にばらまくのではなく、主に貧困地域の内陸部の上映事業者に向けてのもの。比較的豊かな沿岸部では国がコンテンツの調達費用まで負担し、ひとり一元くらいの安価入場料金を取る。一部の有力会社は、これを商機と捉え、独自に機材などを買い付けて、農村部をカバーする二次配給のシステムを作っている。映画上映の前に広告を流すなど、将来的には有望な二次メディア市場となることを見込んで投資しているという。

上映作品について

上映する作品は、今のところ中国映画のみ。理由は、普段ほとんど映画を観ることがない農村部の人達にとっては外国人の顔が同じように見えるからだという。一部では海外作品を観たいという声もあるそうだが、中国は国土が広く、貧富の差があるので、映画を全く観ない人達に、映画に対する意識を植え付け、将来的に映画の観客に育てていこうとの方針を優先している。

デジタル・シネマの配給

  1. 一般の映画館で上映される作品でも、デジタル素材の場合は中影集団数字電影院線有限公司から配給される。中国電影集団公司電影発行放映分公司、夏電影発行有限責任公司から配給される同じ作品でも、デジタル素材の場合は中影集団数字電影院線有限公司から配給される
  2. 既存の映画館には約600のデジタル・シネマが国の費用によって設置されている。ここで上映されるデジタル・シネマの興行収入は中国が公表する年間の興行収入にカウントされる。
  3. 中小都市に1.3Kのデジタル・シネマを5000スクリーン2010年までに設置の計画。
  4. 約8億人いるといわれる農村部にむけて、中国は、中影集団数字電影院線有限公司を通じて、0.8Kのデジタル・シネマ36,000スクリーンを 2010年までに設置する計画。機材、人件費は国、自治体が負担し、映画の入場料金は無料、もしくは1元程度。この観客動員、興行収入は公表される映画データにはカウントされない。

提供:掛尾良夫(キネマ旬報映画総合研究所